2007年5月30日水曜日

20070530読もう9

「この船に幽霊が出るという噂があるんですが、...ぼくたちみたいな客の一人が...しばらく海を眺めていて、ふいに飛びこんだんです。...あがった死体は右の腕がなかったそうです。スクリューに切りとられたのかもしれませんね。...自分の失った右腕をさがしているのだという噂です。...」「なぜ、その男が自殺したのか知っていますか?」と私は訊いた。「...なんの原因もないのです。金に困っているわけでもなく、失恋したわけでもなっかた...」眉をひそめ、男は遠い所を見る眼つきで海をみつめた。「多分...」と云って男は口ごもった。「多分、この海を見ているうちに、なにもかもいやになったのでしょうね。...ぼくにはその気持ちがわかるな。こうしていると、なにもかも忘れて、この海の底で眠りたくなる。あなたは、そう思いませんか?」私も、海をみつめた。海は暗く、静かに私を呼びかけているように思えた。「そうなのです。」ため息を吐きながら、私は云った。「それで、あの晩私は飛びこんだのです。」私の右腕がないのに男が気づいたのは、その時だった。                            (生島治郎「暗い海暗い声」)問:「あの晩私は飛びこんだ」のは、なぜか。 1. 借金と失恋で生きる希望を無くしたから。 2. 自分の失った右腕をさがそうと思ったから。 3. すべてを忘れて海の底で眠りたくなったから。 4. 海の中の幽霊に呼ばれたような気がしたから。 正解:3

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